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バイエルンの空はいつも青い
? (その3)

 エッセンにいたときには、デュッセルドルフに近い関係で、それでも何人か日本人の患者も診ていたのだが、ここに来てからはさっぱり。したがって日本語を話す機会もほとんどない。この雑文の日本語が多少おかしいとしても、これは著者の責任ではない。
 来るのは勿論ドイツ人が大多数。しかしもしあなたがドイツの地図をもっているなら見ていただきたい。ここいわゆる低地バイエルン、ミユンヘンの北東、はオ-ストリアとチェコと国境を接しているのがわかるだろう。実際私の町からは、五十キロメ-トルでチェコへ、八十キロメ-トルでオ-ストリアへ入ることができ、ミュンヘンよりもずっと近い。そして両国はポ-ランド、スロバキア、ハンガリ-それに旧ユ-ゴスラビアなどが隣国である。
 そのためこれらの国からの移民は非常に多い。勿論戦後ドイツに大挙して移ってきたトルコ人も住んでいる。そのほかにロシア、ル-マニアから来た人々もあり、どれだけの違う国籍の人たちが私共の医院を訪れているのかわからない。
 そこで問題になるのは言葉。多くの人はドイツで金を稼ぐために来ているので、これにはドイツ語が不可欠。したがってこの場合はドイツ語が通用するので問題はない。ただ専業主婦などはやはり自国の言葉しかわからない人が多く、この場合は通訳を必要とする。みな家族とか知り合いを連れてきて、プロの通訳というのは見たことがない。家族ないしは友達内で助け合う精神は、これらの人々の間ではかなり強いようである。したがって言語上の問題は比較的少ないのだが、時にはドイツ語が片言以上にはわからない人が一人で来て、これには往生する。私もここでは外国人で、ドイツ語には苦労してきたほうだから、かなり忍耐力は強いほうだが、ギブアップするケ-スも時にはある。どこの国にも自分の母国語に強度の誇りを持ち、他の言語を一切拒否する輩はいるもので、こういう人が医者になると、ぶつぶつと文句ばかりを言っている。
 尤もバイエルン地方の方言はすざましく、北部のドイツ人にとっては、まさしく外国語。私も何年かで向こうの言うことは、訛りがきつくても大体理解できるようになったのだが、現地人二人が早口で会話しているのを近くで聞いてもまず九十五パ-セントは何を言っているのかさっぱりわからない。例えばドイツ語を多少は学んだあなたでも、「モ(エムオー)」といわれて分かる人はいないだろう。ドイツ語の辞書を引いてみるが良い。私の辞書では「モリブデン」ないしは「月曜日(モンタ-ク)」の略としか載っていない。これがバイエルン方語で「夫」を意味するのを知っている人はかなりの通である。私も最初言われたときは何のことやらさっぱり分からず、患者を待たしておいて看護婦さんに聞きにいったのだが、大笑いした後に意味を教えてくれた。
 言葉はともかく、精神構造はドイツ人でも、東ヨ-ロッパの人でもあまり変わりはない。私も外国が長すぎるのか、却ってアジア人の患者が、恥ずかしがるのかどうか、こちらのした質問に、特に生理、セックスについて、すぐに答えてくれないのに、いらいらする。産婦人科なのだから診察には下半身裸になってもらうのだが、これをまったく恥ずかしがらないのがスカンジナビアの人たち。全裸で日光浴をするのが一般的なためだろうか、服を脱ぐのに全然抵抗がない。中部ヨ-ロッパ人もまずは問題ない。南部ヨ-ロッパから中近東にかけては恥ずかしがる人が多い。特に難しいのは、日本人を含めてアジア人。脱ぐこと自体を恥ずかしがる上に、診察台の上にあがっても体を変にくねらせて、診察ができないことがある。皆さんはおやと思われるかもしれないが、結構裸を恥ずかしがるというか、嫌がるのがアメリカ人。ピュ-リタニズムの影響かどうか、大体テレビで乳首が映ったぐらいで大騒ぎをするのはアメリカ人だけである。表紙に乳房が出ていて抗議を受けていたら、ドイツの雑誌は全部発禁になってしまう。


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